直心影流の精神と特徴ある呼吸

鹿島神傳直心影流剣道を学ぶ者にとっては「法定会会約の要旨」と「剣道の本旨」が基本的な精神となる。さらに稽古での内修と外習で精神の充実を図り「平生生活即剣道」をモットーに修養錬磨して剣道を日常生活に活かす事である。

下記に 「法定会会約の要旨」と「剣道の本旨」が記載されていますのでご覧ください。

 

法定会々約と剣道の本旨

法定会々約の要旨

 素(モトヨリ)法定学ハ手ノ舞ヒ足踏ノ術ニアラズ。上ハ則チ神明ノ至徳、下ハ勇士ノ要道ニ因ル。法ハ自然ノ法則、定ハ道ヲ定メ、知ノ感ズル所ニ応ジ、義ノアル所ニ従フノミ。

 故ニ利根名聞以テ己ヲ是トシ、或ハ客気慢心以テ勝チヲ好ミ、或ハ容貌ヲ動カシ暴慢ニ至リ、或ハ辞気ニ出シテ鄙倍ニ渉リ、此等ノ心業一ツモ茲ニアルトキハ本旨ニ非ズ。相倶ニ之ヲ警戒セヨ。

 若シ其ノ功ヲ用インカ、手ヲ下シテ劼(キルツク)撃抑ユルノ時ニ在ラズシテ、却テ酬酢(シウサク)云為(ウンイ)ノ中ニ在リ。閑ト無ク忙ト無ク、語トナク黙トナク翕聚(キウシウ)ト離散トヲ論ゼズ審密ニ之ヲ察シ、内省シテ疾シカラザルヲ要ス。

 神質恥ザレバ必ズ自得ノ期アリ。其ノ安ズル所果シテ、謙順ナルカ、或ハ未ダ執滞ノ讒雑(ザンザツ)ヲ免レザランカ。其ノ信ズル所果シテ虚明ナラン乎。或ハ未ダ穿鑿ノ意志ヲ免レザラン乎。其ノ存スル所果タシテ純粋ナラン乎。或ハ未ダ放侈ノし窒碍ヲ免レザラン乎。

其ノ安ズル所謙順ナラザレバ則チ和ヲ失フノ端ヲナス。其ノ信ズル所虚明ナラザレバ則チ乱ヲ興スノ設ヲナス。其ノ存スル所純粋ナラザレバ則チ礼ヲ傷ルノ罪ヲ為ス。最モ理会セザルベカラズ。

 謹ンデ法定ノ源ヲ探レバ、教ユベキ事ナシ。学ブ可キモノナシ。只是天性自然ノ霊竅ニ原ヅキ、進退自ラ天則アリ。瑣々タル技量、狭々タル気迫ノ能スル所ニアラズ。所謂邪ヲ塞ギ、正ヲ立テ乱ヲ定メ、治ヲ致スノ具ニシテ修身ノ道也。暫クモ徳ニ拠リ義ニ拠ラザルベカラズ。

 (中略)故ニ其ノ要領ハ后来習態ノ容形ヲ除キ、本来清明ノ恒体ニ復スルニ在リ。

然ラザレバ則チ徒ニ筋骨ヲ労シ、精神ヲ費ヤスノミ。

 若シ之ニ由ッテ臨懼(リンク)ノ勇ヲ存養シ、遏殺(アッサツ)ノ剣ヲ用ユル者アランカ、始メテ此会ノ徒ニ群居スルニ非ザルコトヲ信ジ、修養ノ淵源ナルコトヲ知ル已。

剣道の本旨

 夫レ剣道ハ我国古来ノ武士道ノ粋タリ。其ノ理深遠ニシテ応用ノ道広ク、利害ノ関係モ亦大ナリ゜故ニ之ヲ学ブ者ハ剣下ニ心性ヲ悟リ、己ヲ責メテ人ニ勝ツベキ決断力ヲ修養シ、形体ノ運用ハ自然ニシテ刀形ニ適ヒ、剣ヲ用イテ乱サズ、理非ヲ分別スルハ剣道ノ本然ナリ。

 之ニ適フ者ハ無作ノ妙用ヲ発スルニ至リ、未萌ヲ制シ、不立ニ勝チ、彼我ノ虚実ヲ察シ、生殺与奪ノ機ヲ知リ、変化応用ノ法理ヲ自得シ、上、剣ノ道ニ超出ス。

 学物剣道ノ枢紐ヲ失ハズ、軽忽ナク誤認ナカランコトヲ切望ス。               

                            山 田 次 朗 吉

 

 

 

特徴ある呼吸法

 当流は現存する古武道の多くの流派のうちでも、呼吸法を現代に伝えている数少ない流派のひとつです。日本剣道史(22ページ)によればこの剣道を学んだ者に限って特色があると述べている。それは阿吽の呼吸で。千軍萬馬いりみだれし間に往来奮起して息切れせぬことで。しかるに学剣者は呼吸の連続が整正である。この点がだんだん武士仲間に知れわたると始めて剣道は敵を切る為でばかりの業でない。兵の精鋭を尚ぶ気力に大関係あることを知るものが多くなりこの剣道の業に没頭する武士が多く出てきた。

 この呼吸の習得のため基本の修業として形稽古の基礎である運歩、真歩、打ち込み、振棒が重視されてきました。 

 法定の神秘性についてある医師(命を救われた人)は「法定はまさに偉大なる整体術であり、「その真をえれば」心の安静(悟り)が得られる、神秘に満ちた剣道の形といえます」と述べています。